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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2021.10.15(坂の上の街に住んでる)

朝起きて細々したものを最後に片付けたらすぐに引越し業者さんが来た。全員惚れ惚れするような手捌きで荷物を片付けていく。時計とカーテンとシーリングを外し忘れてる自分に「座ってていいからね」と声をかけて次々に部屋から荷物を運び出していく。申し訳がたたなくて、ゴミを拾ったり窓を開けたり意味のわからない動きをしてたら「座ってていいよ」ともう一度言われたので座った。ものの40分くらいで作業が終わった。拍手したかった。ガスの点検を待たなきゃいけなかったので空っぽの部屋でひとり待った。何にもない部屋はちょっとした音が反響して四角い箱みたいだった。物がなくなっただけで、ついさっき目を覚ましたはずのその部屋は自分の知ってる場所ではなくなっている気がした。午前中の強い柔らかい日差しがカーテンのない窓から入ってきた。定期的にパシッって音がする。あれはなんだったんだろう。横にごろんとなりながら宇佐美りん『推し、燃ゆ』を読み切った。今村夏子の『こちらあみ子』と非常に近い座標にある小説だと思った。でもそこへ向かう筆致が明らかに違う。この二つを並べて誰かと話したいな、という気分になった。コミュニケーションの不全をテーマにした物語は、なぜか見終わった後の読者のコミュニケーションを加速させる気がする。そうこうしてるとガスの業者さんが来て、確認してすぐに去った。電車に乗って東京を跨いで神奈川に向かった。長すぎて途中寝た。来るのは二度目だけど、本当に坂の多い街だ。歩いていると息が上がる。自分がついた頃には荷入れはもう終わっていた。感謝しかない。昨日あれだけ頑張って段ボールに詰めた荷物を解いていく。ベッドと本棚の配置がうまく決まらない。クローゼットが前よりも狭い。ある程度終わらせて横になる。何か近くに美味しいお店はあるのかな、と思って探したら3件くらい美味しそうな街中華がある。頑張って歩いて向かったけど、どこも人気で混んでいた。頑張れば入れそうだったけどちょっと気が引けたので適当に歩いてみた。知らない街を歩いているとちょっとだけ不安になった。だからすき家に入った。知ってる味ほど安心するものはない。鶏そぼろ丼の冷奴セット食べた。美味しかった。すき家に救われる日もある。自転車屋さんがあったので入ったけど、電動チャリは馬鹿みたいに高い。すぐ出た。また坂を登って帰った。坂の途中見下ろすと、ビルの明かりが綺麗そうに見える。「いくら綺麗でもしょうがねぇんだよ」と言いたくなる。