anomeno

神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2019.07.23

どっかで花火の音がする。離れた席の誰かが言った。19時をまわったころ、たしかにドン、ドン、と重い音がする。そんなに遠くはないらしい。窓はブラインドが締め切られているのでそれは見えず、すぐにノートパソコンのディスプレイに目を戻す。今週末にフジロックに行くのでその分の仕事を消化しなければいけない。なぜか決まってこの時期にめんどくさい仕事が重なる。清々しく行かせてほしい。

そうか、学生は夏休みなんだ。夏休み。なんて素晴らしいんだろう。明日も休み。明後日も休み。友達と自転車でプールに行くんだろうか。映画を観に行くだろうか。お祭りに行くんだろうか。駅に着くと浴衣の人がちらほら。花火が終わって帰るんだろうか。こんなど平日でも明日が憂鬱なんて表情一つせずに改札をくぐっていく。忘れていた夏休みの始まりの感覚を瞬間的に思い出して、ちょっとした切なさとちょっとしたわくわくが身体をすり抜ける。もうあの期間はこない、と思うとゾッとする。自分はどんな風に夏休みを使ってきただろう。どんよりしたまっくろな空にはもう花火は見えない。