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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2021.10.13(本棚に積み重なってるあれは夢も希望もないぜ)

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早めに部屋を出て出社した。しとしと雨が降っていた。ビニール傘で手がふさがるのがなんとなく今日は嫌で、折りたたみ傘があるし。と思いながら歩いた。リュックの脇ポケットに入れた折りたたみ傘はもう骨が折れている。それを自分も知っている。それでも少し濡れながら歩いた。就職して以来配属されて4年半ほど働いた職場の最後の一日だった。月曜日からは異動して別の部署で働く。最後の報告書を仕上げて、引き継ぎのための打ち合わせを2個ほど終えた。なぜかこのタイミングでデータを紙で出力してファイルにまとめてほしいという意味のわからないお願いをされた。共有のサーバーに出来るだけわかりやすく自分のデータをまとめたりファイルをまとめたりした。最後の1時間くらいで数日前に買った小さい乾いたタルトみたいなお菓子を配って歩いた。「今日が最後の出勤日なので、これまでありがとうございました。」って何回も言った。みんなそれぞれに優しい言葉をかけてくれて、なんでこんな自分に。とどうしても思ってしまってヘラヘラしてしまう。「言ったって神奈川だし余裕で来れますよ。2時間もあれば来れます」と言いながら心の中で「まぁ2時間あれば新潟帰れるんだよなあ」と思う。でも距離は時間じゃない。意味はわからないけど今はわかる。今日で最後ですオーラをぷんぷんに出しているのが本当に嫌で(絶対にだれもそんなこと思ってない)、機密文書をシュレッダーにかける時の音すら主張に思えてしまった。紙を出力してファイルしたかと思えば、過去にとったデータの紙をシュレッダーにかけている。まじで意味わからんなと思いながら途中心を無にしてシュレッダーに紙を送り続けた。ガガガガガーっといってシュレッダーの腹の中に雪が積もる。心苦しかったので自分が出したシュレッダーの紙屑をビニール袋に入れて廃棄した。作業着と安全靴とヘルメットも捨てた。宙に投げたヘルメットがクルクル回って「燃えないゴミ」と書かれたカゴに入った。燃えないのかぁと思った。最後にもう一度挨拶をして帰った。リュックはパンパンだった。雨は朝より強くなっていて、骨の折れた折りたたみ傘をさした。

門を出て歩く。急に出来た民間の漫喫みたいなところ。結局子供は集まってるんだろうか。

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脱サラしたおっさん二人がやってためちゃくちゃ油そばの美味しい店、結局去年最初の緊急事態宣言が出た時以来閉まったままだったな、また食べたいな。どうしても入り口のガラス戸から中を覗いちゃう焼肉屋さん。今日も覗いた時におばちゃんと目があった。その店で牛刺しに黄身を混ぜて白飯と一緒に食べた時先輩に「ほんとご飯うまそうに食べるな。」と言われたことを思い出した。まっすぐ歩いて通りを行く。インドカレーのお店の明かりが見える。遅くまで残業した帰りにお店に入ったら同じ部署の先輩がいて、自分が「この後ジムに行く」と言ったら「ジム行くのにカレー食うなよ!」って言われたことを思い出した。信号が見える。横断歩道を渡ったら駅の入り口がある。今はセブンイレブンに変わったけど、前はドラッグストアだったなあ。働き始めた頃、寮の畳が合わなかったのか単純にストレスだったのかで腕が蕁麻疹だらけになった時、めちゃくちゃ親身になってくれた店員さんがいたなあってことを思い出した。駅の改札に入る直前、横を見ると必ずこの看板がある。ひとつも意味わからん。タチの悪い間違い探しだ。と思ってしまう。

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ちょうちんは今日も点いてた。多分、もう当分見ることはない景色を振り返って電車に乗った。指でそっと触れただけで慣性の法則が崩れて滑り出す滑車みたいに、ちょっとした自分の思いつきで4年半の毎日は終わった。もしかしたら引越しの準備が進まないストレスじゃなくて、自分少し寂しかったのか?と思った。というか環境が変化していることがすごくストレスになっているのでは?という気さえしている。それでも引越しの日はやってくるし折りたたみ傘の骨は折れているしリュックは重い。土曜日のDUNE砂の惑星IMAXの座席を予約して電車を降りた。続いてるな、と思って階段を降りた。

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