anomeno

神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2021.04.11(結局どこにも降りられなかった)

もうすっかり日付も変わってしまって、瞼も重くなってきているというのになぜかこんな時に限って書きたくなってしまった。

お昼前に友人が車に乗って迎えにきた。友人の友人の結婚式で近くに来たついでに久しぶりに会おうということだった。コンビニの駐車場から車に乗り込んだ。カレーが食べたい。という共通の想いでもうやんカレーへと向かうことにした。東京のはしっこから池袋を目指した。目的地が近づくと、窓から見慣れた景色が見える。歩きながら自分の目で見る景色と、動く車の窓から見えるそれでは明らかな違いがある。特別感と言い換えてもいいかもしれない。動く速度や目線の位置、隔てられた空間の中、それでも確かに知ってる道。めちゃくちゃ変。超違和感。駐車場を探しながら彷徨っていると池袋駅北口に出てしまった。いよいよ本当に車でなんて通らない道だ。周りには駅から出たら入ったりする人だらけ。わー違和感。変になりそう。なんで自分はこんな場所から猥雑なホテル街とか駅前の交番を眺めてるんだろう。

なんだかんだして行き場を無くした車は、もうやんカレーを諦めて池袋を抜け上板橋へと向かう。少し離れただけで人と車のどちらが支配的か、その主導権がこんなに変わるんだなぁ、なんてことを思ったりした。結局はなんてことのないラーメンをすする。またしても車に乗り込み、液体燃料を都市中に撒き散らすが如く、あてもなく車を走らせる。人を運んでくれるはずの便利な鉄の塊も、東京と呼ばれる都市の上では目的地を選ぶ足枷にもなるし、止めることも休めることもできない鍵のかかった部屋にもなってしまう。あー不思議。変になりそう。

気付けば車は練馬を抜けて下北沢を抜けて止まることなく走る。青看板が次に示す先が厚木になったところで我に返って折り返しが始まる。駒沢大学を横目に目黒を抜けて白金台、有楽町、銀座を通り過ぎる。もう違和感を通り過ぎて非現実みたいだ。まさか丸の内ピカデリーの前を車で通り過ぎるなんてなあ。いつのまにか東京湾が見えて晴海埠頭にたどり着く。こんだけ土地を埋め立ててりゃ駐車場もあるだろうと高を括るも、東京ビッグサイトの駐車場は封鎖されていた。眼前に広がる湾を前にして行き場をなくした。ここにも降りることはできなかった。

再び動き出した車はお台場を経由して江東区木場を過ぎて霞ヶ関に接近する。あぁ、ここも歩いたことあるなぁ。とかぼんやり窓から見ながら思っていた。故郷から移り住んで4年が経った。自分が思っているよりも随分いろんな景色を歩きながら見てきたのかもしれない。いつのまにかこの都市のいろんな場所が知ってる景色に変わっていたことに気付いた。なぜかちょっと寂しくなったりした。

そうして車は出発した場所に帰ってきた。夜ご飯を食べようにも、お昼を食べてから車を降りることすら出来なかったわけだしお腹が空くはずもない。疲れ果てた運転手の友人を休ませるために自分の部屋へと帰る。帰ってきた。という感覚があった。やっと動く乗り物の外に降りられた。という感覚があった。2年過ぎて更新料を払っても未だに借り物の部屋でしかなかった自分の部屋もいつのまにか帰ってきてちょっと安心する場所になっていた。ような、そんな気がちょっとだけした。

結局UberEatsでカレーを食べた。最初の目的を思い出した。そんなところから始まったんだった。ひとやすみして帰っていった友人を見送って、自分は吸わないiQOSのにおいが残る部屋にひとり。