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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2019.07.10

どうやらおれはおじさんになるらしい。年齢的な意味ではない。姉が子供を授かったという連絡を母親から聞いて、感じたことのない感情に襲われた。めでたい。というのは簡単で何だかよくわからないというのが正直な気持ち。

自分と3歳上の姉はとても微妙な距離感の姉弟である。自分も自覚している。二人で買い物に行けるほど仲が良くもなく、かといって険悪なわけでもない。会ったら何気ないことも話すしLINEもたまにする。ただ腹を割った話はあんまりした覚えがない。なんとなくちょっとドライなのだ。

姉とのことを思い出す。小学生のころ、学校の作文で姉のことをボロクソにかいたら先生にむちゃくちゃウケて賞をとった。姉のだらしなさや人まかせなところをエピソードを交えながら散々に書いた。そんな姉がコロコロコミックを買ってくれたけど、きっちり後日にお金を請求されたというのが作文のオチだった。姉が高校3年で自分が中学3年の年には電気代がもったいないから、という理由で同じ部屋で受験勉強をした。一緒にMDコンポでスクールオブロックを聞いた。怠けがちな姉は「15分だけ寝る」と言いながら何時間も寝た。何度起こしても起きなくて、そのくせ目が覚めたら起こさなかったことを怒られた。姉のことを怠けがちと言っておきながら、自分は姉の部屋の「水色時代」や「僕等がいた」をひたすら読んでた。変わってない。たまに眠らずに深夜も勉強が続いた時は「ラジアンリミテッド」を聞きながら一緒に笑った。ウォークマンを買ったときにはイヤホンを片方ずつ着けてバンプを聞いた。だんだん趣味は合わなくなっていったけど、お酒を飲んだ姉を迎えに車で駅に行ったときには、さりげなくバンプを選んで流したりしていた。仕事から帰ってきてご飯を食べてはそのままリビングで眠っていた姉が結婚することになった時も実感がなかった。結婚式に出て初めて「苗字」が変わることと新しい家庭ができること、それは自分とは別のものになるんだということを初めて知った。

そんな姉に子供が産まれる。あの石油ストーブの匂いのする勉強部屋に、イヤホンを分けた車の後部座席に、リビングのソファにいたあの姉に。それは、やっぱりとても幸せなことなんだと思う。いろんなことの価値観が揺らいだりすることが多い世界で、それを祝福せずに何を祝福するのだろう。男の子ならおじさんは漫画やCDを貸してあげよう。おじさんがいた部屋にはたくさん漫画もCDもある。好きなものを貸してあげよう。彼が生きる時代には少し古くさいかもしれないけどギターだって教えたい。女の子ならおじさんはお菓子やアイスを買ってあげよう。なんでこれがこんな値段するんだ、みたいな謎のアイスを手を繋いで買いに行く。その時代にあればもちろんタピオカにだって並ぶ。そんなおじさんになることを一人で考えている。