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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

まっ白いおせんべいもふやけちゃうほど

シャムキャッツ夏目さんの歌詞を読み解くイベントに参加してきたのでそのメモ。今回は「AFTER HOURS」〜「TAKE CARE」期の歌詞を振り返るというテーマ。以下箇条書きにて。太字箇所は自分がめっちゃグッときて涙が出そうになったとこ。

 

・「たからじま」までで心理描写はやりきったから次は風景描写しかないと思った。このままノンフィクションで詩を描き続けたら限界が来ると思ってた。

・2枚のアルバムを出した段階でリキッドを埋められなかったらこのバンドは終わりだと思ってた。

・街のアルバムを作ろうと思った時に全員が浦安出身なんだから浦安の自分たちが育った街の風景が浮かぶ様にしようと思った。曲の中に登場する人物の関係が1曲ごとに違う形式に意図的にした。

・3.11の地震の後に液状化した浦安の街の光景を見て、もう一度大きい地震が来た時にこの街は無くなると思った。だったらこの風景を曲にしたいと強く思った。

・風景描写をするにあたって映画的な手法をかなり使った。人の心理を明確な言葉にしたくなかった。例えば「寂しい」ってことを「寂しい」ってそのまま言ったら詩として成立しない。映画だったら履いてるサンダルを少し引き摺りながら歩く女の人の足元からゆっくりカメラが上がっていく。それだけで寂しいってことは演出できる。そういう詩にしたかった。

・「AFTER HOURS」は5曲毎にA面、B面で分けている。「TAKE CARE」はC面。「TAKE CARE」は四季全部の曲が入っている。もっと登場人物の気持ちにフォーカスしようと思ったからジャケットは横顔のアップにした。

・タイトルが全て英語なのはいままでとは違うんだぞってことを明確に表したかったから。海外に進出した時に歌詞は分からなくてもタイトルでニュアンスが伝わって欲しいと思ったから。

過去に引っ張られるのは好きじゃないけど、過去を振り返って瞬間の楽しさや美しさを思い出すのは好き。それは人間にしか出来ないことだと思う。そういう瞬間を音楽にして閉じ込めたかった。

 

『AFTER HOURS』 

1.FENCE

・半ズボンのあいつは昔の自分という設定。故郷に戻ってきた男が昔の自分と対峙する関係。街をテーマにアルバムにしたのではっぴいえんどの「風街ろまん」から「煙草をくわえ一服すると」を引用した。監視台もだれか(失念)の街をテーマにしたアルバムから引用。

 

2. MODELS

・ナレーターの視点で若い男女を描いた。曲の展開に合わせて場面を転換する。映画のイメージ。

・二人が付き合っていることも曲中で明言したくなかった。

・そのときの時代の空気を出すために珍しく固有名詞で「タモリ」を出した。ユーミンが「キムタク」を使ったイメージ。当時バイトをしてる時昼休みの休憩室でいいともが映っているのを見てた。

・歌詞がなかなか出来ず「あ」から歌い出すという縛りを作った。たまにやるらしい。

 

3. FOO

・感情を表に出さない仮面をつけた人を主役にしたくて誰にしようかと思った時に思い浮かんだのが「裁判官」だった。どうせだったらそのまま叫んじゃえってことになった。

 

4. TSUBAME NOTE

・菅原さんがこのタイトルで曲を持ってきたときにつばめが英語じゃないから一度却下したけど「でも商品名だし」ということでOKした。

 

5. AFTER HOURS

・東京に来てお世話になっていたライブハウスの店長さん(?)が辞めて地元に戻るはなむけの曲を作ろうと思ったことがきっかけ。その人が作った「サイダー」という曲を歌詞に引用した。

・でも、歌っているのはクラブで踊り疲れた帰り道の朝のこと。ライブの「非現実」から「現実」に戻っていく感覚を詩にしたかった。

・アルバム全体が何かが終わった後を歌っていたからアルバムタイトルにした。

 

6. SUNDAY

・詞を書くのにとても苦労した一曲。曲の中の男性が好きな人のことを想像するというその後よく使う手法を使った。(マイガールとか)

・「毛玉のカーディガン」は藤村さんが持ってきた作詞案の中から採用した。当時カーディガンをよく着ていたし、シャムキャッツは「草食系ロックバンド」みたいな肩書を付けられていて本人たちは「何言ってんだこいつら」と思っていたらしい。

・ジャケットの絵の中で女の子の耳が描かれたものはこの曲のイメージ。当時一番耳が美しい人をモデルにしたくて選んだのは能年玲奈。たしかに見える。

 

7. LAY DOWN

・いい大学を出て、いい企業に就職して出世するみたいな所謂人生のレールから外れようと思った女性をイメージした。女性が主役の曲だから歌は女性を憑依させた柔らかい歌声にしようと思った。それはその後も一緒。

・「ミントグリーンのカーテン」を入れたのは夢眠ねむが好きだったから。もしねむきゅんがこの曲を聞いて自分の歌だと思ってくれたら2回くらいはヤレんじゃねぇかと思ってた。(会場は失笑)

・「落ち着いたらネコを飼おう/忍者の名前を拝借して」はドラマ「すいか」ともさかりえが演じていた人物がネコに将軍の名前をつけていたのを引用した。すいかは夏目さんがめっちゃ好きなドラマらしい。

・もしかしたらこの人はブラック企業で働いていて自分の人生を見つめ直した時にそのレールから降りようと思ったかもしれない。そういうストーリーを当てはめるのも正解。当時の社会性としてそういうことがあったのは事実。社会性みたいなものは詩の中にあからさまなワードを入れたくない。でもそういうことをしなくても社会で生きる人物を丁寧にを描いていけばおのずと社会性は浮き上がってくるはず。そういう意味ではずっと社会性を帯びたメッセージを歌ってる。

・「歯医者さん」は理論よりも経験則に基づいた治療しかしないという話を聞いて「あんまり信用ならないもの」というメタでよく登場させてる。あとは一度行くと次の予定をすぐ決めてくるから何かを縛るものとしても使うらしい。

 

8. PEARL MAN

・女に撃たれた男が死ぬ瞬間スローモーションになったときのイメージ。その銃弾が真珠だったら素敵じゃない?って言いたかった。真珠は貝の中に入っていることからけっこう性的なイメージがあるらしい。

 

9. SWEET DREAMS

・明確に戦争のことを歌っている。アルバムの中にそういう曲を一曲は入れなきゃいけないと思った。そういうことを詩にして歌わないとそういうことを一切考えてないアーティストなんだと思われると思ってる。

・ジャケットのピンク色の雲は映画「ドラえもん のび太とアニマル惑星」の中に出てくる異世界への越境のイメージ。

・やわらかい丸いおせんべいが好き。

 

10. MALUS

・ラストは明るく終わりたかったから愛のことを信じきってる馬鹿な男を主人公にした。

・「永遠だって信じてる」とかただの馬鹿でしょ!

・そういう愛のことを信じきってる馬鹿が無意識のうちに良くも悪くも周りに影響を与えている。その危うさを「ジョーカー」を見て思い出した。

・中学の頃団地にサンクスが初めて出来た時大騒ぎになったことを思い出してコンビニを登場させた。

 

『TAKE CARE』

1. GIRL AT THE BUS STOP

・曲の発想は映画「Virgin Suicide」のキャッチコピー"あのとき彼女はもう大人で、僕らは騒々しいだけのガキだった"から。

・男女のイメージは28〜32歳くらい。

 

2. KISS

・ときかく可愛い男の子を主役にしたかった。「走って君に飛びついて/何か言おうとする前にキスする」という詞がかけたときに間違い無いと思った。

・夏目さんが中学生の時にはプリクラの代わりに証明写真の撮影機に深夜に入ってみんなで写真を撮っていたらしい。

 

3. CHOKE

・曲構成がA、Bを繰り返す形式なのであんまり展開がつけられず散文的な「たからじま」期の作詞法にちょっと戻った。

・歌謡曲をかなり参考にした。木綿のハンカチーフ、17歳、等々。

 

4. WINDLESS DAY

・主役の女の子はEXILEを聴くような、シャムキャッツを絶対知らないような人にしたかった。

・作詞のきっかけはceroの高城さんのお母さんルミコさんが亡くなったこと。亡くなる前に高円寺のバーガーキングの前で会って話した時のこと、ピスタチオのアイスを高いけど美味しいと言いながら食べたこと、そういうルミコさんの可愛らしさみたいなものを曲の中でずっと生かし続けたいと思った。詩の中に登場する人物がルミコさんというわけじゃ無いけどその駅前の空気感を再現した。

 

5. PM 5:00

・この時くらいにメジャーデビューしないかという声がかかっていてメンバーでこの先の話をすることが多かった。「どうしてここに居たいのかたまにわからなくなるんだ/川沿い遮るものもなく西陽が照りつける/あの電車に乗らなくちゃ/最近僕らは喋るとそんなことばかり言ってるのだ」はそういう雰囲気が出てる。

・このあたりで夏目氏の尿意に限界が来て途中退室。バンビさん登場してた。

 

あまりに良いイベント過ぎて来月の第三回「マイガール」〜「Friends Again」のチケットも速攻予約しちゃいました。