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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2018.06.23

同期が会社を辞めた。昨年の4月から同じ職場で働いていた。程度こそいろいろあるけれど、平たく言えばパワハラのようなものが原因らしい。

 

職場では別のチームだったから直接そういう場を目撃したりはしてないのだけど、たまの仕事終わりにいっしょにラーメン食べに行ったり、カレー食べに行ったりすると、愚痴言い合ったりなんかして、いわゆるよくあるストレスみたいな、そんなもんだと思ってた。

 

そんなときは大体気づくと会社の話もそこそこに、昔やった懐かしいゲームの話にいつもなっていた。ポケモンスタジアム金銀ミニゲームで何が一番好きだった?とかヨッシーストーリー難しかったよねとか、そんな感じの話をした。「一人っ子だから、みんなでやるゲームってあんましたことなかったんだよね」と彼は言っていた。あと覚えてるのが、ラーメンなんかを食べてると、「こっちも美味しいよ。ちょっと食べる?」っていつも交換してくれた。別になんてことない、よくある会話だけど、自分は捻くれてるから、「ちょっとちょうだい」は言えても自分から勧めるなんてなかなか出来なくて、普通にこういうこと言えるのってすごいなって思ってた。

 

自分なんかよりも全然頭も良くて、かといって人付き合いも出来るし、それでもうまくいかないものかと、遣る瀬ない気持ちになる。うすっぺらいけど、本当に自分はなにもできなかったのかとかも。

 

「もうこの職場ではやって行けないと思う。」と聞いた翌日から彼は職場に来なくなってしまった。それを否定もできなかったし、かと言って何か言える間も無く、そうなってしまった。

その3日後くらい、職場の飲み会の流れ流れた3次会くらいで、会社近くのバー的なところに行ったら、別の上司と一緒に飲んでいた彼とばったり会った。なんだか気まずいのもあって、そのことに触れる会話もしないで、500円玉を手の中から消すマジックを見せたりとか、バーのテレビに映ってる「デッドプール」をあれめちゃくちゃ面白いよとか、そんな会話しかできなかった。

 

夜中の2時をまわって解散することになって、何故かよくわからないけど雨も降ってたのにコンビニでアイスを買ってから、寮に向かって二人で歩いた。自分はルマンドアイスで、彼はチョコモナカジャンボだった。この期に及んで二人になったら何を言ったらいいかわからなくて、口から出てきたのは「スマブラの新しいやつ、見た?」だった。この期に及んで。雨も降ってるのに、明日食べる予定だったアイスの袋を開けて二人で食べた。歩いてる間、ずっとそんな話をしてた。最後の一本道のところで「明日からとりあえず実家帰るわ」と彼が言った。「そっか。それがいいよ。おれも帰ろうかなー」それしか出なかった。コンビニで買ったビニール傘が横並びになるとぶつかってしまって、自分は彼の後ろに少し下がった。

もしかしたら、これが最後とか、そういうのあるんじゃないかと思って、もっと話すこととかあるんじゃないかと思ったけど、考えてるうちに寮の入り口に着いてしまった。最後の最後にエレベーターを待ってるときに、なんとか口から絞り出したのは「まぁさ、今度みんなでポケモンスタジアム金銀やろうよ」だった。「うん」って返された気がする。

 

次の日からの職場では、そのまま残った彼のデスクがなにもいじられることなく残っていて、同じように彼のことには誰も触れない。でもなにも変わってない。会社から人が一人いなくなることって会社にとって何も変わらないんだなぁ。自分はそうなふうに思いたくない。ラーメンに、カレーに、アイスに、スマブラに、彼がいたことを閉じ込めておきたい。