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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

数十億光年先から - 『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう/第5話』

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はい。何だか今週に限ってはあまり書きたくないような、でも書かないとやってられないような、そんな気持ちです。第一章が否応なく完結してしまい、物語は僕らがまさに今生きている2016年へと舞台を移すことになりました。強烈に印象に残ってしまうのはやはりラストなのですが、まあまあひとまずそれについては置いておきましょう。僕もまだふわふわしています。

この第5話において、象徴的だったのは「宙に浮いた言葉」じゃないだろうか。坂元裕二の描く会話の魅力の大部分はこれだと思っている。多用される「アレ」や、名前やディテールはしっかりしているのに登場しない人物(今回で言えば携帯5台の岩田さんとポッケに唐揚げの近藤さん)など、台詞量の多い会話の中で飛び交うのはこんな不確定な言葉たちなのである。それは表層上の会話は成立させているように見せるものの、やはり一枚皮をはげば何一つ繋がってないことを明確にするものでもある。先述した例が飛び出したのは、練・木穂子と音・朝陽が一堂に会するシーンである。特に、音と木穂子の会話の出だしが「確定申告ってもうしました?」なのが最高だった。

時間を少し戻して、音・練・静恵さんの会話のシーンでは、二人をぐいぐい引っ張ろうとするこれまた流石な静恵さんの「独り言です。」という言葉をきっかけに二人きりになった練と音が、独り言(=「宙に浮いた言葉」)を交換する。しかし、やっぱり二人はそんな表層上の関係ではいられない。独り言の交換から、机の対角に位置して会話を始めるのです。そんな会話というのは「棚の一番奥の方にしまった大事なもの」という名の想いです。それはまさしく冒頭で描かれていた、練が渡せずに棚にしまった電気ストーブじゃないですか!

芋煮会に時間を戻しましょう。これまで揃うことは一度もなかったメインキャスト6人がついに鍋を囲みます。が、小夏と晴太によってその表層上の皮は引っ剥がされます。確かにあの時の小夏の言葉というのは木穂子や音の立場に立てば非常に悪意めいた言葉だけど彼女の言ってることって至極正論なんですよね。それに暴走して全部めちゃくちゃにしてやろうと思って小夏が発した言葉っていうのは、何より彼女自身の練に対する想いなのにまさしく「宙に浮いた言葉」になってしまうわけです。その場では音が言葉を全く発さないというのも意味がある。今までで初めて小夏の存在意義を確認することができたのだけど、それでも彼女がなぜそこまで練に好意を寄せるのかがいまいち納得できない。晴太の真意も読めないのだけどそれに関しては動機なんてない、彼の空っぽさと今は解釈することにする。

そして、冒頭では練と一緒にバスに乗っていた木穂子はタクシーで一人帰ってしまう。とことんまでの乗り物を使った演出は隙がない。乗り物といえば、朝陽が大量の車を音と一緒に洗車するシーンは音楽もあってかやけに浮ついているように感じたのだけど何か意図はあるんだろうか。あとは、ラストの話に行く前にどうしても話しておきたいのが佐引さん。今後佐引さんのシーンにハズレはないんじゃないだろうかと思わされるほど先回、そして今回と高橋一生さんの演技が素晴らしい。今回に関しては、帰省するために土下座、にいきなり持っていくのではなくその前にワンクッション置いたことでより深みが増したと思います。脚本のこういったところ、さすがです。

はい、ではラストについて。時系列から考えて彼らが「あの日」を通過しなければならないことは今までも予想してきました。坂元裕二という人は意味なくそんな設定を持ってくるはずはないし、練の故郷が福島県になってることからも深く関係してくることは明白でした。しかし、あっけなくその日は通り過ぎて5年の月日が経ってしまいます。ただ、この第5話の中では2011年3月のカレンダーや坂上二郎さんの命日(2011年3月10日)などあえて明確にはそのことに言及せず、含みをもたせたまま時間を経過させているわけです。第一章と第二章は言うまでもなく3.11以前と以降の全く別の世界に別れてしまうのでしょう。あの練が、人身事故に舌打ちをしタクシーに乗るようになってしまったのも元をたどればそこに原因があるのでしょう。ただ…ただこれはとても扱うに困難なデリケートな題材すぎるし、こっちに舵を切ったか…と不安を隠せない。少しでも安易に描いてしまったらボロが出てしまうような棘の道だと思います。あの第1話の感動を知ってしまったら、余計下手なところに着地して欲しくないのです。

そんな不安もありますが、でも、思い出してみてください。この第5話の始まりのシーンはどんな会話でしたか?屋上で星を見て音と朝陽は何を話していましたか?音が落としたたこ焼きはどんな形で再び現れましたか?もっといえば、第1話なぜ音と練は出会えたんですか?何十億光年も先の時空の歪みが重力波として届いたことが観測できた2016年ですよ!やっぱり時間をかけて、きっと棚の一番奥の方にしまった想いは届くんですよ。って思いたいじゃないですか。坂元裕二という人はそんなことをやってのける人だと思います。と、少し信心深さが度を過ぎたところで終わります。