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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2021.12.22(馬鹿じゃできねぇんだよ)

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日記と称しながらM-1グランプリ2021のことについて書きたい。とても良い大会だった。みんな面白かったとか、ひとつひとつの面白かったところに触れていても仕方ないのでそれは避けたい。というのも、見返すたびに爆笑しながら「笑い」ってこんなにもアンコントローラブルなものだったんだと再確認させられる瞬間が度々あった。そういうところに今は興味がある。ともすれば「人を笑わせる」ことなんて本来とても暴力的でナルシズムに満ちた行為だし、みんながひとつの同じもので笑ってるなんてちょっと異常な気さえする。ここで現在の審査員7名になった2018年から2021年までの審査員の得点を最終結果の順位に照らし合わせて見てみる。

2018年

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2019年

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2020年

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2021年

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例年、(ほぼ)上位のコンビに個人の最高得点がつき、下位のコンビに最低得点がつけられる。まぁ至極当たり前な結果な気もする。しかし2021年はどうだろう。最終的な順位とは関係なく、下位のコンビに最高得点やそれに近い高い点数を付けている差異が見られる。これだよ。と思った。人が何を面白いと思うか、その反対に面白いと思わないかなんて一致するわけがない。最大公約数すら狙いに行く意味がない。やっぱ本来、笑いの形ってこういうことでしょと思わされた。とても健全な形だと思った。無論、ひとつのものを絶対に共有なんて出来ないからこそ、お茶の間や劇場やひとつの空間で同じものを見たりする幸せや楽しみがあるのも紛れもない事実です。自分もそれを味わいたくて足を運んでるしテレビをつけてる。

最終決戦投票後に松本人志に「今回ほど誰に入れるか迷った決勝はなかった。でも最終的に一番馬鹿なコンビに入れようと思った。」と言わしめて見事優勝した錦鯉。彼らを含めて今大会全体に、敗者復活戦に出場していたあるコンビのネタ中の一言を引用してみたい。

「簡単そうに見せることに技術がいるんだよぉ!馬鹿じゃできねぇんだよぉ!」

惜しくも(ぜんぜん惜しくないけど)そのコンビは決勝には届かなかったけど、この言葉こそがやはり全てな気がする。錦鯉の合コンのネタは過去の予選やもっと言えばテレビのネタ番組でも多く披露されていたネタだったけど、FIRST ROUNDで披露したそれは明らかにブラッシュアップされている。それは後半に向かうにつれて明らかにテンポを上げて盛り上がる展開を作っていく隆さんのツッコミの調整がかなり大きい気がする。はたまた惜しくも(本当に惜しくも)優勝に届かなかったオズワルドの友達のネタも数年前にM-1の予選でやっていたり、過去のライブでやっていた時の映像がYouTubeに上がっていたり(今は消えてる)したけど、明らかにM-1で勝ち上がれるような調整がしてある。いずれをとってもこれを計算ではない、とは言えない。やっぱり馬鹿じゃできないのである。ただ。ただ。その上で馬鹿になることが出来るからお笑いは凄いんだと、笑いって凄いんだと言わしめる大会だった。それに尽きる。それに尽きたいけどやっぱり個々のことも語りたいことがあるのですこしだけ個別に書かせてください。そうでもしないとぽっかり穴の空いた自分の心を埋められない。

 

ランジャタイと境界

扉を開けたら、外は風が吹いていて猫が飛んでいる。飛んできた猫が耳の中に入って身体の内側から自分のことを操作する。面白い。何が面白いって伊藤さんの立ち位置だと自分は思ってしまう。外のことはまだしもなんで国ちゃんの中にまで境界線を踏み越えて行けるのかよくわかんないのが面白い。ツッコミでも説明でもない、マヂカルラブリーno寄席をもってして「唯一の友達である国崎を理解しようとする伊藤」であるという構図が愛おしいし面白い。ちなみに準決でやったのは「中学の時のバスケの試合のここぞという場面でパスをもらった国ちゃんが怖くなって家に帰って笑点を見始めてしまったので、デロリアンに乗って過去に行って試合に戻しに行く」という設定でこれがまたマジで面白いし何なら泣けてすらくるのです。ランジャタイの漫才は薄皮一枚剥いた先に郷愁のようなものを感じるのは自分だけでしょうか。

 

真空ジェシカディストピア

真空ジェシカは装置的な笑いがある、とずっと思っている。自分の中でそれは機械的という悪い意味とは意味合いがまったく違う。何というか、パーソナルの熱さやストーリーを排除した平熱の笑いがあるのがとても心地よいし何よりカッコいい。絶対に面白いことを言ってくれるという信頼感があるしそれが裏切られたことがない。〜をしたいからそれに付き合ってほしいというベタベタなコント漫才のフォーマットを使いながら、その中身はベタなものが何ひとつない。まじで狂ってると思う。2人とも爆裂に大喜利が強いのは言うまでもなくそれを漫才に落とし込むとこうなるというか、それこそ大喜利的に点で置いていくボケとツッコミが決して散らばることなく、でも不用意に回収されることもない。するとそれはどこか理不尽で退廃的なディストピアに見えてくるのが面白すぎる。今回の一日市長しかり、去年の商店街のネタもそう。だって考えれば考えるほど、おばあちゃんのハンドサインがヘルプミーなのってなんで笑えるのかまじでわかんなくないですか?ともすればめっちゃ怖い。あと、キムタクのハンバーガーの持ち方が「虫みたいでかっこいいんだよな」っていう絶対いらないけど100%いる一言も最高です。やたらとセンスが良いと評されていた真空ジェシカですが、やっぱり諸刃の剣的な側面も大いにあるというか、ハラハラするようなことを言ってくる場面も今後多々あると思うのでそれも踏まえて爆売れしていくのを見ていきたいです。

 

はあー。ちなみに自分は敗者復活戦から予想は大外し。唯一「俺たちが一番面白い」の煽りが誰になるかだけは的中しました。もうすでに来年から楽しみだし常に物語が繋がっていると思うと面白すぎるよね。