anomeno

神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2021.11.07(わたしとあなたを隔てるなにか)

ひとつ歳をとりました。ただの生きてきた年月の数字を言うだけとはいえ、すこし口をつぐんでしまうくらいには年齢を重ねてしまった。20代最後の歳だ。何が変わるわけでもない、とも思いつつもひたすらに重い一歩を階段の最後の一段にかけたような感覚。誕生日だからといって特別なことは何もなくて、IKEAから届いたチェストやら本棚やらをひたすら組み立てた。マニュアルに則って組み立てていくという作業は意外と無心になれて嫌いじゃない。ちゃんと物としての形が出来上がっていくのも心地が良い。金槌でトントントンと釘を叩いていたらドン、と音がした。イヤホンをしていたのもあったから、気のせいかと思って作業を続けたらまたドン、ドン、と今度は2回壁が鳴った。ああ。壁ドンじゃん。幸運にも今まで自分は壁ドンの経験がなかったので、いざその状況になったら完全に思考が停止してしまった。手の中にはこれから打たなきゃいけない釘が27本も残ってる。はて、どうしたらいいんだ。時間は14時。非常識な時間とは考えにくい。うーん。と知恵を絞って下に敷いていた毛布の上に掛け布団ともう一枚毛布とバスタオルを数枚敷く。金槌にもタオルを巻いて衝撃を吸収してあげる作戦でいこう。音はいささかマシにはなったけど、いかんせん釘が入っていかない。そりゃそうだ。でも仕方ないよなと思いながら一本打っては様子を見て時間を置いてまた一本と進めていく。こんなもん27本も打てないと思って10本ほど余らせた状態で作業を止めた。少ししてちょっと腹が立ってきた。いや、音がうるさかったのは自分が悪い。壁ドンってなんだよ、というその威圧的な行為に腹が立ち始めた。問題はあるかもしれないけれど、まだ直接訪ねて扉越しに言われた方が自分は気持ちがいい。事実たったの3発のドンで自分はそれ以降何をするにも必要以上に音を立ててないかを意識してしまっている。壁を殴ると言う行為で牽制されて自分の生活が制限されるのってちょっと一方的すぎないか、ともやもやが渦巻き出す。たった一枚壁を隔ててるだけの顔も知らないその人がどういう気持ちで壁を殴ったのか教えてほしい。しかし思っているよりその壁は薄く、そして厚い。憂鬱な気持ちになりながら吉住のラジオを聴いて気を紛らわせて作り上げた。ほとほと疲れたのでちょっと休んで外を歩いた。野菜を買ってきてまた鍋にした。高校からの同級生で、何年も誕生日プレゼントの交換をしている大事な友達から今年も贈り物が届いた。会える時は直接渡し合ってたけど、もう随分住んでいる場所も離れてしまっているのでお互いに宅配で、でも繋がっている。Tempo Dropというオブジェで、エタノールで密閉された容器の中を漂うクスノキのエキスが、その日の気候の変化に応じて結晶を形作るらしい。何も変化がないように思える毎日に、少なからず確かに変化するものをチョイスしてくれるのはさすがだなと思った。距離はわたしとあなたを隔てているものじゃないと思った。

f:id:moire_xxx:20211108012034j:image

夜に友達とPodcast録った。日曜日の夜に録って一週間かけてちまちま編集して上げるという習慣が出来てきて楽しい。元々、平日特別やることがないというのが始まるきっかけだったからちゃんとそれが回収されている。でもそれ以上に2時間くらい何かを誰かと向き合って話すと言うことはその内容以上に行為としての意味があると思ってきている。食事はおろかアルコールも交えない純な会話。大事なものをこの歳になって見つけたと思った。そんな誕生日でした。