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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2020年ベストムービー30 [1〜10]

10. パラサイト 半地下の家族

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キム一家は家族全員が失業中で、その日暮らしの貧しい生活を送っていた。そんなある日、長男ギウがIT企業のCEOであるパク氏の豪邸へ家庭教師の面接を受けに行くことに。そして妹ギジョンも、兄に続いて豪邸に足を踏み入れる。正反対の2つの家族の出会いは、想像を超える悲喜劇へと猛スピードで加速していく……。

味気のない言い方をすれば、映画と呼ばれる装置の力を改めて思い知らされた。
希望や絶望は決して形として目にすることは出来ないけれど、映画にはそれが出来る。人は決して誰かの視点で生きることは出来ないけれど、映画にはそれが出来る。離れた場所で耳にする音や鼻をつく匂いも、映画なら感じることができる。

例えば、雨が流れる排水溝。例えば、街灯の点滅。例えば、道に転がる石。何気ない景色も映画を見る前と後ではまったく違って見えてしまう。たった2時間で確かに世界は変容する。(ように感じる)

至る所で言われていることではあるけれど、ここ数年で世界同時多発的に作られた"格差"をテーマにして作られた「万引き家族」「ジョーカー」「天気の子」「アス」「家族を想うとき」、それぞれに感じた歯痒い部分が全て補完されてこの一本に集約されたと言っても過言ではないように感じた。

 

 

9. 燃ゆる女の肖像

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画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から娘エロイーズの見合いのための肖像画を依頼され、孤島に建つ屋敷を訪れる。エロイーズは結婚を嫌がっているため、マリアンヌは正体を隠して彼女に近づき密かに肖像画を完成させるが、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを批判されてしまう。描き直すと決めたマリアンヌに、エロイーズは意外にもモデルになると申し出る。キャンパスをはさんで見つめ合い、美しい島をともに散策し、音楽や文学について語り合ううちに、激しい恋に落ちていく2人だったが……。

あらゆる視線が交錯する様を第三者的に見ることができるのが映画の特性の一つだとしたら、それをこれほどまでに的確に捉えた映画はない。
それは振り返ることも同じ。この映画自体がマリアンヌが過去を思い返す、という構造自体もそう。だからこそ全体に切なさが立ち込める。
ラストの28ページのくだりは本当に最高。数字と視線だけでこんなにもエモーションが掻き立てられる。その後のもう一度来るラストのシークエンスも、「最後に見たのは」という前置きが付いていることを考えると余白が広がる。自分はあの場所にあの人は実在してなかったんじゃないかなぁなんてことを考えてしまいました。
エンドロールであの輪唱流れろ!と思ってたらバッチリ流れてたのも最高でした。

 

 

8. ジョジョ・ラビット

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第2次世界大戦下のドイツに暮らす10歳のジョジョは、空想上の友だちであるアドルフの助けを借りながら、青少年集団「ヒトラーユーゲント」で、立派な兵士になるために奮闘する毎日を送っていた。しかし、訓練でウサギを殺すことができなかったジョジョは、教官から「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名をつけられ、仲間たちからもからかいの対象となってしまう。母親とふたりで暮らすジョジョは、ある日家の片隅に隠された小さな部屋に誰かがいることに気づいてしまう。それは母親がこっそりと匿っていたユダヤ人の少女だった。

序盤、街を駆けるジョジョをを捉えるカメラは横方向に動く。とても平面的。

そんなジョジョに靴紐を結ぶ、イスに上ってダンスを踊るという動作でもって上下に空間の広がりを与えるのが母親(ときに父親)のロージー。とあるシーンで目を背けるジョジョを無理やり見上げさせてあるものを見せるというのもそう。しかし、それがとても悲しい形で反復される。

また、壁の向こうに住処を隔てることで空間的な奥行きを与えるのがエルザ。ノック、手紙、似顔絵が壁を越えることで二人が交わる。

そういう世界の広がりでマインドは変わっていく。結局これはある国を賛美した映画だとか、そんな悲しいこと言ってくれるな。線を引いて何かを蹴落としたりとかもうそういうのよくないですか。あのラストシーンを愛と言わずしてなにを愛と言う!!!!!!

映画の出来で言ったら「パラサイト」や「フォードvsフェラーリ」の方がきっと良くできてる。でも個人的にこういう超が付くくらいの理想を描く映画が好きなんだと思い知らされた。

 

 

7. mid90s

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シングルマザーの家庭で育った13歳の少年スティーヴィーは力の強い兄に負けてばかりで、早く大きくなって見返してやりたいと願っていた。そんなある日、街のスケートボードショップに出入りする少年たちと知り合ったスティーヴィーは、驚くほど自由で格好良い彼らに憧れを抱き、近づこうとするが……。

ファーストカットからスクリーンに惹きつけられるし、平行移動や高低差を使っていかにスケートによるアクションを映画的に撮るかに意欲的。二度ある中央分離帯をまっすぐ滑るシーンとその変化は忘れがたい。ジョナ・ヒルとんでもねぇな。

撮影が抜群な分、ストリートとその背後にある社会構造については台詞による説明になってしまうのが辛いけど彼らの視線の交錯とその果ての関係の変化にはどうしても胸が熱くなるし目が潤んでしまう。ルーカスヘッジズ兄貴も最高。同時期に公開されたドキュメント映画「行き止まりの世界に生まれて」とあわせて語りたい。

 

 

6. ソウルフル・ワールド

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ニューヨークに暮らし、ジャズミュージシャンを夢見ながら音楽教師をしているジョー・ガードナーは、ついに憧れのジャズクラブで演奏するチャンスを手にする。しかし、その直後に運悪くマンホールに落下してしまい、そこから「ソウル(魂)」たちの世界に迷い込んでしまう。そこはソウルたちが人間として現世に生まれる前にどんな性格や興味を持つかを決める場所だった。ソウルの姿になってしまったジョーは、22番と呼ばれるソウルと出会うが、22番は人間の世界が大嫌いで、何の興味も見つけられず、何百年もソウルの姿のままだった。生きる目的を見つけられない22番と、夢をかなえるために元の世界に戻りたいジョー。正反対の2人の出会いが冒険の始まりとなるが……。

インサイド・ヘッド」で人間の人格の形成を描いたと思いきや、今作では「人の生きる意味って?」みたいなとこまで切り込みだしたもうちょっとどうかしてる領域のピクサー
夢って何?やりがいって何?人は何かを成し遂げなきゃいけないの?聞かれることは沢山あるけど、そんなのおれも全然わかんない。
終盤で流れる「Epiphany」(=悟り)という曲とモンタージュアニメーションが本当に素晴らしくて書いている今も涙ぐんでしまう。人は何かにならなくたって、それまでも何かなんだよなぁ。

下降、上昇をしっかりとした活劇にしてしまうあたりはもう言わずもがなのピクサーの手腕だし、トレント・レズナーアッティカス・ロスコンビによるジャズ、エレクトロな劇伴も見事。これが劇場で公開された世界線に行きたかったという後悔がひたすら残る。

 

 

5. ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

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南北戦争時代に力強く生きるマーチ家の4姉妹が織りなす物語を、作家志望の次女ジョーを主人公にみずみずしいタッチで描く。しっかり者の長女メグ、活発で信念を曲げない次女ジョー、内気で繊細な三女ベス、人懐っこく頑固な末っ子エイミー。女性が表現者として成功することが難しい時代に、ジョーは作家になる夢を一途に追い続けていた。性別によって決められてしまう人生を乗り越えようと、思いを寄せる隣家の青年ローリーからのプロポーズにも応じず、自分が信じる道を突き進むジョーだったが……。

大切な人がいなくなってしまったり、自分の気持ちがわからなくなったり、読まれない手紙を破り捨てたり。そういうことを忘れないために人は物語を紡ぐのだろうし、文章を書いたり、絵を描いたり、写真を撮ったりするんじゃないだろうか。

いかにもウェットな語り口になりそうな展開を現在と過去の時制のジャンプで一転ドライに見せたり(その逆も然り)、温かさと冷たさが同居したショットを繋いで見せたり(海辺のシーンは特にそれを感じた)グレタ・ガーウィグ、なんつーかもう流石だ。
NYの街の往来を逆行する主人公を横スクロールで撮るのなんて、凡百の作り手ならラストに配置するはずなのに、それは冒頭に持ってきてラストにはその先をしっかり描いていたりするところが完全に現代にアップデートされた映画であることを象徴している気がする。

ベスとジョーの海辺のシーン、エイミーとジョーの湖のスケートのシーンは何度だって観たい。

 

 

4. The Half of It

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アメリカの田舎町で暮らす中国系の女子高生エリーは、内向的な性格で周囲となじめずにいた。頭脳明晰な彼女は、同級生の論文を代筆して小銭を稼いでいる。そんなある日、エリーはアメフト部の男子ポールからラブレターの代筆を頼まれるが、その相手は彼女が密かに想いを寄せる美少女アスターだった。1度は拒否するエリーだったが、家庭の事情でお金が必要になり、仕方なく代筆を引き受ける。

行動が感情を追い越したり、言葉が後から感情に追いついたり、愛なんて何なのか1mmもまだわからないけど、そんな瞬間に巡り合うために自分は映画を見たり、言葉を綴ったりする。んだよなぁとか改めて思わされるくらいに心動かされた。

自転車とランニングの並走。車への同乗。そしてラストのアレ。関係の変容は動きの変化で見せる。車線、窓枠、鏡を使った演出もめちゃくちゃスマート。

2020年現在、ティーンムービーの最前線はここ。ラストシーンとかガッツポーズしちゃった。

 

 

3. ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

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高校卒業を目前にしたエイミーと親友モリーは成績優秀な優等生であることを誇りに思っていたが、遊んでばかりいたはずの同級生もハイレベルな進路を歩むことを知り、自信を失ってしまう。勉強のために犠牲にしてきた時間を一気に取り戻すべく、卒業パーティへ繰り出すことを決意する2人だったが……。

見終わった後、心底思った。おれもこれから自分のことをちゃんと認めながら、それと同時に自分を疑いながら生きていきたい。「正しさ」なんてきっと時間と共に形を変えるだろうし、誰にも掴めないものだろうから。
「正しい」と勝手に決めた場所に身を預けて安心するよりも、分かり合えない(と思ってしまう)誰かに線を引かずに生きていきたい。あいつにだってあの人にだって、きっと分かり合える部分はあるだろうから。

細かいことは言いたくないからみんな見て!!!!!観ながら何度も泣いちゃったし、同じくらい笑った。『ハーフオブイット』と『ブックスマート』がある2020年、超最高じゃん。
Perfume Genius『Slip Away』、Rhye『Open』が流れるシーンがベスト。

 

2. はちどり

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94年、空前の経済成長を迎えた韓国。14歳の少女ウニは、両親や姉兄とソウルの集合団地で暮らしている。学校になじめない彼女は、別の学校に通う親友と悪さをしたり、男子生徒や後輩の女子とデートをしたりして過ごしていた。小さな餅屋を切り盛りする両親は、子どもたちの心の動きと向き合う余裕がなく、兄はそんな両親の目を盗んでウニに暴力を振るう。ウニは自分に無関心な大人たちに囲まれ、孤独な思いを抱えていた。ある日、ウニが通う漢文塾に、不思議な雰囲気の女性教師ヨンジがやって来る。自分の話に耳を傾けてくれる彼女に、ウニは心を開いていくが……。

日差しが作る光と影は常に反射し同居し続ける。まなざすこと、それだけが物を語り映画になる。

この先も言葉にしがたいあらゆる断絶がわたしたちを隔てるだろう。それがウイルスなのか、人種なのか、格差なのか、性別なのか、それはわからない。傷ついて、疲弊して、悲しみ続けるだろう。
それでも世界は広い。まなざすことを諦めなければ、その奇妙な美しさを見出せるかもしれない。そうして、いくつものさよならを繰り返しながらわたしたちは生きていく。聞けなかった「話の続き」は自分の手で白紙のスケッチブックに綴らなきゃいけないから。

オールタイムベストの一本になりました。何度でも見たい。

 

 

1. ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋

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アメリカの国務長官として活躍するシャーロット・フィールドは目前に控えた大統領選の選挙スピーチ原稿作りをジャーナリストのフレッドに依頼する。常に世間から注目され、脚光を浴びるシャーロットと行動をともにするうちに、彼女が高嶺の花であることがわかっていながらフレッドは恋に落ちてしまう。しかし、この恋にはクリアしなければいけないさまざまな高いハードルが待ち受けていた。

エンドロールの流れる劇場で「最高すぎる…」思わず口にしてしまうくらいには打ちのめされた。映画としての出来で言えばこの映画よりも優れた映画は沢山あるだろうけど自分はこの作品愛さずにはいられない。軽いタッチではあるけどむちゃくちゃすごい映画よ???とちょっと無気になってしまったので自分が唸った映画的な魅力をかいつまんで。

 

・アップからの引きのカメラワーク
"It Must Have Been Love"にあわせて二人が周囲の目を忍んでダンスを踊るシーン。手を取る二人をアップで映すカメラは後退しながら、部屋を隔てる壁を超えてダンスホールの全体を捉える。またはジェット機に乗るシーンにて二人の秘密である深呼吸をするフレッドを見て微笑むシャーロットを捉えたカメラは機内から後退しながら、大空を飛ぶジェット機全体を捉えるのだ。
この映画は二人の恋愛(ラブストーリー)を描きながら、同時に階級の異なる二人がどのように関係を築いていくのか、というもっと広い視野の物語でもあるのだ。言いたいこと(主題)とやっていること(手法)ことの一致。見事。

 

・ゲームオブスローンズと冷蔵庫の扉
とある展開により今までの関係の終わりを余儀なくされる二人。離れた二人がカットバックで繋がれる。そのなかでシャーロットが何をしていたかというとTVドラマ「ゲームオブスローンズ」を一人観ているのだ。
冒頭の会話で「趣味は何かないのか?ゲームオブスローンズ見るとか?」「あらすじは全部読んだわ」「それじゃ意味ないだろ」というニュアンスの会話があったことを思い出してほしい。
あらすじだけを文面で眺めて見た気になっていたシャーロットは計8シーズンもあるドラマを見ているし、最初はどこまでが曲名なのかもわからなかったDRAMの"Broccoli feat. Lil Yachty"をきっかけにLil Yachtyのファンにもなっている。
他者の話に耳を傾け、他者の領域に足を踏み入れる。これこそいわゆる"住む世界"の違う二人を結びつけた理由に他ならない。そういう希望がこの映画にはある。宗教観も肌の色も政治思想だってみんな違うけど、とはいえわかり合える部分だってきっとあるでしょ?とこの映画は問いかける。

 

その場面でフレッドは意を決してシャーロットに電話をかける。留守電のフリをしながらフレッドの思いの丈を密かに聞くシャーロット。このときシャーロットは暗いキッチンで冷蔵庫を開けているんですね。真っ暗な部屋の中で冷蔵庫の中の灯りだけが光っている。
どうしようもなく暗く絶望的な世界でも、自分を支えてくれる存在はきっとすぐ近くにいて、それに気付いて自分の手で扉を開けさえすればその光に辿り着けるという演出に思えた。
実はこれ、まったく同じ演出を「逃げるは恥だが役に立つ」でやっていて見ながら思い出してもうウルウルきて仕方なかった。


10年代が終わって、2020年が始まったってのに早々にキナ臭い方向に世界が向かっていて本当に嫌になる。この映画の世界は理想かもしれない。見ながらこんな世界だったらいいのにと思うのは現実逃避?そんなこと言わないでよ。この映画はちゃんとクソな現実を生きてくだけの力をくれてる。超くだらないけど最高なドラッグガンギめシーンとかでめちゃちゃ笑いながら元気出して、映画館でて歩きながら、明日からはこういう風に生きてみようかなって考えながらまたなんとかやっていける。あー最高。誰かが引いた見えない線なんて飛び越えてやるっての。それでもつまらんことで差別したり、クソおもしろくもないことで足を引っ張ってくるやつなんてもう知らない。ファック!!!!