anomeno

神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2019.09.21〜2019.09.23

人の心の中なんてものはそうそう見えないものである。どれだけ見知った人だって一枚隔てた壁の向こう側がどんな風になっているのかわからない。せめてと人はその壁についたドアノブを捻るためにコミュニケーションをとって鍵をゲットしていくのだ。なんの話かって?部屋の鍵を失くした。いや、失くしたというのは大袈裟だ。旅行先のホテルに忘れてしまった。すっかり慣れ親しんだ部屋のドアが開かないというだけでこんなにも他人行儀に見える。中が見えない、入れないというだけでこんなにも頑丈に見える。たびたびこういう失態が日記の中で登場する、と読んでいる物好きなあなたは思うことだろう。もうなんとでも思ってほしい。そういう人間なのです。しかしまあ隠しても仕方ないのでここで笑い話になるように文章としてしたためる。それでは時間を少し戻そう。

 

21日。友達と名古屋へ小旅行に行く。目的はBUMP OF CHICKENのライブである。もうツアーを追っかけてしまっている。生きているうちにあと何回BUMPのライブに行けるのか、という思考になっているので参加できるときにはしたい。東京駅で友達と待ち合わせて名古屋に向かう。あっという間の旅路である。1時間半もすれば到着してしまう。ホテルに荷物を預けてひつまぶしを食べに行く。バナナマンのラジオで遠い昔に話していたひつまぶしの話を思い出して「あつた蓬莱軒」に行きたかったのだけど本店に行くには少し遅かったので、栄付近にある別店舗に向かう。松坂屋デパートのフードフロアに向かうとそこも既に長蛇の列。1時間半ほどの待ち。いや、東京〜名古屋間の新幹線と同じ時間よ?と思ったもののそこは我慢。待ちながら友達と水平思考クイズをして時間を潰す。遂に案内された店内のテーブルに運ばれてきた輝かしいひつまぶし。カリカリに焼かれたうなぎに笑みが溢れる。こんなに美味しいものがあるんだ。設楽さんはひつまぶしを食べる工程は旅行に似てると確か言っていた。1膳目は旅行の計画。どんなところに行こうかと友達と話しながら決める楽しさ。2膳目は旅行先へ向かうドライブ。車内で聞く好きな音楽やゲームなどそれぞれの薬味を足して楽しむ。3膳目はメイン。温泉なりレジャーなりここに向けて作り上げていく。4膳目は写真を見ながらする旅行の振り返り。あぁここが楽しかったよなぁとかいいながら結局道中の車内が楽しかったってなったりする。食べながらまさにだなぁと思った。自分も最後の1杯は薬味でフィニッシュした。最高。食べ終わって会場に行く。人がいっぱい。古いツアーのTシャツを着てる人を見るとわくわくする。最近はすっかりライブにバンドのTシャツを着ていく発想と気概がなくなってしまった。肝心のライブもむちゃくちゃ良かった。初回公演よりも俄然良くなっていた。歌も演奏も伸び伸びしてる。定番曲に改めて感動してしまう。終演後、栄駅に戻って手羽先を食べながらお酒を飲む。名古屋のキャッチは元気がいい。やる気がある。「兄貴!何か探してる感じっすか!おれ謙虚なキャッチなんすよ!しつこくしないんで!兄貴!どっちいくんすか!飲みすか?飲みならそっち居酒屋ないっすよ!いやまじで!行くなら逆方向っす!まじで。ほら、おれ良いキャッチでしょ!」たしかに良いキャッチだ。居酒屋からホテルまで帰る。コンビニでお酒を買い足して音楽を流しながら友達と話す。今思えば結構酔っ払っていたみたいで眠りについた記憶もおぼろげ。ここでポケットに鍵を入れたまま着替えたはず。だった。

 

22日

朝起きてシャワーを浴びてホテルをチェックアウトしてウェルビー栄に向かう。サウナ界では3本の指に入るほどの名所。施設の中には本場フィンランドの森の中を意識して作られた「森のサウナ」や湖を意識して作られた-25℃の空間で水に浸かれる「アイスサウナ」がある。ノーマルサウナも横になれたり、座る位置によって聞こえる音が変わる指向性スピーカーが搭載されてたりと、サウナ自体のステータスよりもどれだけリラックスできる環境にできるかに重きが置かれている感じがした。アイスサウナは冷凍マグロになった気分になった。何より良かったのが、もうひとつのアイスミストサウナ。こっちはミスト状の冷気が漂った冷たいサウナで身体がじんわりと冷やされていく。良きところで出て温泉に入るとあら不思議。普段は温→冷で気持ち良くなるのに、冷→温の逆転で気持ち良くなる。浴槽のなかでととのうという初体験ができた。その後味噌煮込みうどんを食べに行く。ここもまた行列。案内された席の隣にいた人が声が大きい割に全発言がつまらない珍しいタイプの人だった。そしてなにも思い残すことなく名古屋駅に行き、東京行きの新幹線に乗った。通り過ぎていく景色を眺めながらふと思い出す。鍵はポケットに入ってたんだっけ。探る。無い。カバンの中は?無い。昨日履いたズボンの中は?無い?嗚呼。ホテルに電話をかける。「ありますよー。鍵とイヤホンと眼鏡。」いや、イヤホンもかい。眼鏡?眼鏡は友達のだ。やってる。やり散らかしてるわ。すべて送ってくれるとのことでありがたいのだけど到着は明後日になるとのこと。通り過ぎてく景色が恨めしく思える。でも、まあなんとかなるだろうという薄っすらとした、なんの確証もない希望を抱きながら座席に座ってすごい速さで運ばれる。東京駅について、アパートの管理会社に連絡するも土日祝はやっていないとのこと。嗚呼。世の中には鍵開け業者なるものが存在するらしい。調べてみるとめちゃくちゃ出てくる。相場4000円程度で鍵を開けてしまうらしい。鍵とは。と思いつつも今の自分には一番救世主となる仕事なのには変わらない。連絡をする。開かない部屋の扉の前で待っていると鍵開けの兄ちゃんがくる。開けそうな雰囲気。扉を見て「あー、これピッキングできないタイプのやつっすね。」いやピッキングて。あの?あのピッキング?日常使うかね。と思いながらしかもできないんかいということに気付く。では?ではどうする?「開けようとしたら大体10万かかりますね。」盗賊かよ。いきなり現れて扉開けるから10万だって?いや、いきなり現れたんじゃなくて呼んだのは自分なんだけど。帰れ!といいたい気持ちをぐっと抑えて帰っていただく。さて。どうしたものか。不思議なもので開かない扉を前にするとすっかり自分の部屋という感じがしない。いくらでも頭の中では中が想像出来るのにそれを見ることが出来ない。切なくなりながら駅に向かってなんとか夜を明かす場所を探す。頭に浮かんだのは「草加健康センター」であった。2500円ほどで宿泊もできる。カプセルホテルやネットカフェよりも断然良い。やっぱり最後におれの力になってくれるのは草加健康センターなんだと噛みしめながら向かう。もう3週連続で行ってることになる。こんなことになってしまった罪悪感と虚無感に襲われながらサウナに入ってもまったく整えず、休憩室で「進撃の巨人」を読んでみるもまったく頭に入ってこず、いつのまにか疲れて眠りについた。

 

23日

朝からサウナに入って「暁のロウリュ」なるものを受けるもやっぱりととのえず。とりあえず持ってる服を洗濯する。草加駅ドトールで今これを書いている。書きながらより自分を卑下する気持ちでいっぱいになっている。これから一晩泊めてくれる心優しき友人のところへ向かう。笑い飛ばせるもんかと思ったけど意外と難しい。だからせめてこれを読んでる人には引かずに笑ってほしい。ばかじゃんってひとこと言ってほしい。そう。ばかです。