anomeno

神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

壊れた未来で会おう

今年のフジロックから帰ってきたとき、どこか不完全燃焼という名のもやもやを抱えていた。ラインナップに不満があってもやっぱりフジロックはいつものフジロックで結局は楽しかった。大雨に打たれようがその価値観は揺らがなかった。携帯が壊れてもその価値観はあまり揺らがなかった。ふと時間が経った時に考えてみて、そのもやもやの正体に気づいた。変わったのはきっとフジロックではなく自分。自分が求めるものが変わっていっただけなのだと思う。とにかく今まで見たことのない景色を見たいと思った。今までの自分にない価値観や新しい世界を見たいと思った。きっとそういうことなんだと思う。フジロックで見たステージの中でとりわけ記憶に残っているのは日本のバンドGEZANのステージだった。お洒落とはかけ離れたルックスの長髪&金髪の男どもがうるさい音を鳴らしているのだ。そこで鳴る音はロックとかパンクとかヒップホップとかシティとかローカルとかそういう括りがアホらしくなるほど自由な音楽だった。こういうことだ!と言いたくなった。そこで聴いたAbsolutely Imaginationは自分の中の人生のベストモーメントの一つとしてあげたい。

そのGEZANが主催する「全感覚祭」というイベントが来る10月12日に開催される。予定だった。全感覚祭はチケットフリー、いわゆる投げ銭制を取っていて言ってしまえば無料で参加できる。それに加えて今年はフードフリーも掲げていた。要はイベント内で口にする食べ物もフリーなのだ。それこそ全感覚祭のコンセプト、その場で見たり聴いたり食べたりするものの価値を自分が決めるということなのだ。これを成立させることがいかに無謀なことなのかということに関してはGEZANのボーカルであるマヒトゥザピーポーのコラムを是非とも読んでほしい。例えば食材を提供してくれた人のどんな想いがあるか、お米一粒一粒の貴重さ、音楽を聴ける喜び身に染みる文章である。国境やジャンル、趣味や趣向、さらには人が抱える格差まで、あらゆるボーダーを取り払った場所がそこにあるのだ。おれはその場所から見える景色がどんなものか見てみたかった。自分がどんな感覚を覚えるのか知りたかった。

しかし、強烈な勢力を保ったまま日本に接近する台風19号によってその開催はやむなく中止となった。あらゆるイベントが開催中止をアナウンスしていくなかで全感覚祭だけはなかなか開催可否のアナウンスがなかった。この空白の時間、きっと彼らはどうにか出来ないかと考えたり、悩んだり、もしくは祈ったりしたんだろうなと思う。ギリギリまで悩み、考え、祈った結果、開催中止のアナウンスが今日された。無念だ。台風だから仕方ないとそういう気持ちの折り合いをこの先どれだけすればいいんだろうか。確実な気候変動を抱えた世界で、この先もしも毎週大きな台風が来たとする。週末に結婚式をあげようとする幸せな夫婦や、運動会を楽しみにする小学生、お墓参りに行く家族や、好きな人に会う休日も「台風だから仕方ない」で片付いてしまうの?そんなこと考えてもそれこそ仕方ないかもしれないけど、考えなきゃこんな生きづらい世界生きていけないじゃんよ。

でもきっとGEZANや全感覚祭にまつわる誰もがきっといまも未来を見てる。壊れた未来かもしれないけどそこで笑って会えるように。