anomeno

神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2019.07.26〜2019.07.29

ハロー、世界。フジロックの二日目の夜から携帯が壊れて、3日目の朝だけちょっと復活して、また逝ってしまって、今に至ります。携帯のない生活をして約2日。意外と慣れた。ただ、世界と繋がっていない感じがとてもする。リアルが豊かに見える、なんてことも特にない。さて、こんなことに負けてもられないのでこの数日を振り返る。日記という形をとりながらもうはや日記ではないのでは、なんて思うけど今年のフジロックをまず総括するとこれに尽きる。「ギターを鳴らす意味、あるかも」です。

 

26日

朝4時に起きる。荷物を準備して薄暗い中部屋を出る。普段歩く道がなんだか違って見える。ワクワクする!これから楽しい時間の始まりだ!駅に着く。新幹線のチケットを発券しようとして、クレジットカードを探す。ない。そうだ。フジロック中はほとんど電子マネー決済だから最低限の現金と保険証やら以外は持ってきていないのだった。やむなくまた部屋に戻る。この時点で汗だくである。陽も登ってきたし、普段と同じ景色に見える。なにやってんだか。上野駅から新幹線に乗って越後湯沢へ。スーツをきてる人を横目にハライチのターンを聴きながら揺られる。越後湯沢駅で友達を待ちながら新潟のご当地ビール「風味爽快ニシテ」を飲む。遠い目。友達と合流してシャトルバス乗り場に行くと長蛇の列。遠い目。多分1時間後に始まる中村佳穂のステージには間に合わないな、と悟る。この時点で心に決めたことがある。それは「執着しない」こと。間に合わないと思ったらあきらめる。疲れたと思ったら休む。眠かったら寝る。雨に濡れてもまあ死なないし。と思う。執着と呼んでいいのかわからないけど、所謂、社会的なルールをここでは忘れようと思った。そのための3日間だし。会場に着く。ジャスミンタイのチキンバジルを食べる。美味しすぎて泣きそうになった。この時のために生きてた。オリジナルラブPUNPEEを目撃。PUNPEEギャルなので嬉しい。ジャネール・モネイを見る。完璧。100点。ずっと圧倒されてた。最高にキュートで、セクシーで、強い。世間の物差しでは測れない女性らしさ、その多面性を表現しながら、どストレートな女性「だからこそ」の魅力もしっかり表現する。あの衣装の皮肉さったらない。その場ではコミカルにも見えたけど、うーん。そう言うんじゃない気がする。全てのマイノリティに光を。ファック、トランプ。と明確に中指を立てたMCに溜飲が下がる。そういうことよ。レッドマーキーでMitskiを見る。大クセ。エアロビクスシューゲイザー。ホワイトステージでトムヨークを見るも、世界観の強さについていけず離脱。サスペリアの曲が1曲聞けたからよし。一回宿に戻ってKID FRESINOを見ると誓うも寝落ち。これがフジロックだ。

 

27日

朝起きて宿で朝食を食べる。ブルーベリージャムのパン。卵とベーコン。めちゃくちゃいい宿だった。来年もあの宿に泊まりたい。朝一発目のGEZAN。超最高だった。ファズギターを鳴らすことでしか伝わらない何かがあった。ヒップホップにもソウルにもファンクにもポップスにもない力。隣にいた女の子が最後の「DNA」を歌いながら涙を流してて、こんな最高な場所ないなと思った。そのあと、迷ったけど銀杏BOYZを見た。不覚にもまた涙ぐんでしまった。あんな峯田のMCに感動なんてしてたまるかと思ったけど、「あの頃のメンバー元気かな。あの頃に彼女元気かな。」でやられた。ぽあだむ、最高だった。ceroの高城さんのソロを見る。大雨が降ってくる。バチャバチャ。木陰に隠れる。こうなったらもうやけになるしかないよね。友達が「人間が唯一自然に勝てる3日間だよね」と言っていたのがすごく頭に残ってる。この後くらいで携帯が死ぬ。リンゴマークがついては消える。世間ではそれをリンゴループと言うらしい。その後クラムボンとダニエル・シーザーを見るも、心に社会と執着がちらつき始める。大丈夫だろうか。連絡取れないかも。保険きくのかな。いやいや、いかんいかん。今いる場所に集中するんだ。うん。電源コードにさしたら復活するかも。バックアップ取ってないけどやばいかな。このままだったら明日はどうすればいいんだ。あー。もうだめだ。土砂降りの雨の中完全に社会に引き戻されてしまった。友達を置いて宿に一人帰り電源コードをさしてみる。うんともすんとも言わねえ。はあ。テレビからすべらない話が流れる。おれはフジロックに来てるのに何をしてるんだろう。外はアホみたいに雨が降ってるけど、おれは雨に負けたんじゃない。自分の執着心に負けたのだった。

 

28日

朝起きる。枕の脇の携帯の画面を触る。リンゴが映る。映る。映る。消えない!数秒たってホーム画面がつく。やった!やったぜ!この世の全てに感謝!祝おう!赤飯を炊こう!グリーンステージではnever young beachが最高のライブをしている。昨日の雨とは打って変わって快晴。最高だ。ここは天国。どれどれ、天国の写真でも収めてやろうかいの、と携帯のカメラをステージに向ける。はて、こんなに曇ってるかね。携帯の画面にはやたらもやのかかったステージが映る。本当に天国みたいだ。ま、水が多少入ったらこんなこともあんべ!と気を取り直す。めちゃくちゃいいライブだった。ライブ中も薄々おれは感づいていた。カメラを起動したはいいけど指のスライドに画面が反応しない。一部の場所のタッチには反応する。はて。こりゃいっぺん再起動だ!と再起動する。リンゴ。消える。リンゴ。消える。リンゴ。おかえり。もう慣れたもんよ。こうなりゃ携帯なんてただの重い板だ。もう社会になんて縛られてたまるかとポケットにしまう。ハイエイタス・カイヨーテの最高のライブを見ながら眠りにつく。ホワイトステージでHYUKOHをみる。ムッチャクチャいい!何だろう。こういうギターフレーズある!とかこういう展開入れたくなる!とか想像の域をいい意味で出ない。高校生が、こういう曲できたらかっこいいよなってアホみたいに部室でやってたけど形にならなかった屍を集めたらHYUKOHになったみたいな。近くにいた男の人が「うわー。なんかバンドやりたくなってきた!」って言っててわかる!って思わず言いたくなった。バンドのメンバーのルックも最高。全員かっこいい。連続でKOHHをみる。挑戦的なステージングではあったけどちょっと消化不良も否めない。月曜日はどうしてもやらなければいけない仕事があったので最後までいれず帰る。暗くなった帰り道を友達と歩いていたら途中で逸れた。大勢の人、暗い道。少し待ったり、周りを見渡したりするも見当たらない。こういう時、何の気なしにLINEで連絡を取り合えばすぐに待ち合わせ場所を決めて会えるだろう。しかし、今の自分にはそれがない。少し絶望する。何万人が歩く中で、一人。まあとりあえずとゲートに向かって歩く。バス乗り場まで歩く。その途中で見慣れた姿を見つけた。携帯なくても意外となんとかなるもんだ。とは言いつつ復活しないかちょいちょい確認してたけど。バスに乗って駅まで帰る。まっくら山道をバスが登る。下を見るとさっきまで自分がいた会場の明かりが煌々と輝く。またね。新幹線に乗り上野に帰る。自分だけが長靴を履いて帽子をかぶって電車に乗っている。タイムスリップみたいだな、と思った。今なら携帯も使えないし。最寄駅について、硬いコンクリートを長靴で歩く。切ない。何だろうこの切なさは。部屋に着く。数日ぶりの部屋に明かりを灯す。携帯をパソコンに繋いで復活を試みる。画面には、「問題があります。解決するには初期化する必要があります」というのだ。携帯が無事だった時にはフジロックで写真もたくさん撮った。美味しかったご飯や楽しかったステージ。社会に戻るためにはそれを全部消せというのだ、なんたる。なんたる仕打ちだ。絶望に震える。踏み切れず、何か方法がないか模索するも見つからず、疲れ切った体が限界を迎えて眠る。数日ぶりの自分の部屋での睡眠だった。

 

29日

朝起きるも、奇跡は起きていない。阿呆のようにリンゴマークを連発している。もうそれにも何の感情も起きず当たり前に着替えて部屋を出る。ジメジメした東京の夏。山の中のジリジリした日照りとは真逆だ。疲れの残った体でまた1週間の始まり。仕事をする。来年のフジロックはオリンピック期間を避けてお盆の翌週。お盆の長期休暇の次の週末に、金曜と月曜休みとりますという精神力がもし自分にあるとするなら、またあの空間に行ける。行く前は少しばかり疑問を抱いていた節はあった。これをいつまで続けるんだと。それが100%翻ったわけじゃないけど、ジリジリと嫌な方向に確実に向かっていきそうな世の中に、あの空間にしかないもの、あの空間があるからこそ変えられるようなことがあるのかも、と思った。それがバカみたいな大きな音で6本の太さの違う弦を震わせること。この歪みこそが愛だよ。