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神様の気まぐれなその御手に掬いあげられて

2017年ベストムービー30 [21~30]

2017年の映画ベストを決めるにあたって、色々振り返っているとどうにもすっきりしないことがある。すっきりしないというか、見逃せないことだと思うのだけど。

それは、ネット配信サービスの存在で。自分はAmazonプライムNetflixに加入しているのだけど、その配信スピードの向上といい、オリジナルコンテンツの充実度といい、2017年の成長には目を見張るものがあった。オリジナルドラマで当たり前にめちゃくちゃ面白いものが溢れていて、もう困る。それも極めて映画的な作品が多いというのも事実。

一方映画はというと、マーベルやDCにはじまり、個々の作品が一本の軸で繋がるようなシリーズもの化が多くなった(当たり前になった)なぁという印象。そう考えると「映画のドラマ化」「ドラマの映画化」が始まっているような、というよりもその二つにもう大きな差は無くなっているような気がした。

そうなると、2017年の作品の中で何が一番個人的に良かったのか、と言われるとどうにも無視できないのは『ストレンジャー・シングス/シーズン2』だろう。間違いなく、今年一番心踊らされて、心震わされた。2017年のベストムービーを語る上で、「いや、ドラマだから」という理由で外すことなんて出来ない。他にも『マスター・オブ・ゼロ/シーズン2』『13の理由』も絶対に外せないと思う。

 

なので、先に言ってしまうと2017年ベストは「ストレンジャー・シングス」です。

そう。そうなのだけど、じゃあ本当に映画の映画らしさってなんなのだろう、とか映画館で見る映画にしかない魅力もあるだろうという価値基準のもと、選んだ30本を以下にまとめます。

 

 

 

30. サバイバルファミリー

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ある日、突然サバイバルが始まった————!?東京に暮らす平凡な一家、鈴木家。さえないお父さん(小日向文世)、天然なお母さん(深津絵里)、無口な息子(泉澤祐希)、スマホがすべての娘(葵わかな)。一緒にいるのになんだかバラバラな、ありふれた家族…。そんな鈴木家に、ある朝突然、緊急事態発生! テレビや冷蔵庫、スマホにパソコンといった電化製品ばかりか、電車、自動車、ガス、水道、乾電池にいたるまで電気を必要とするすべてのものが完全にストップ!ただの停電かと思っていたけれど、どうもそうじゃない。次の日も、その次の日も、1週間たっても電気は戻らない…。情報も断絶された中、突然訪れた超不自由生活。そんな中、父が一世一代の大決断を下す。

前作「WOOD JOB」があったにも関わらずまたしてもナメてしまっていて、劇場で見なかった一本。電気がなくなって、「星が綺麗だ」とか「自然っていいね」みたいな感じになるんでしょ、とか、予告から感じたコメディ要素みたいなものは、実際にはほぼほぼ排除されている。そこにあるのは本気の飢えと渇きと死。確かに日本でこれに近いことが起きたとしたら、こんなゆるやかな地獄みたいになりそう。トンネルってこんなに暗いんだ、とか犬って怖いんだ、とか地図読むのって大変だ、とか。当たり前かもしれないけど意外と気づけないことが映画のポイントになってて良い。そのポイントひとつひとつはいいだけにそれがあまり連携してこないのが勿体無いと言ってしまえばそうだけど、ドライブ感があったらそれはそれで映画としての色が変ってしまいそうな気もする。特にラストが、やっぱり自然が良いよねみたいなところに落ち着かないのがいい。あるべき場所に戻っていくというか。

 

 

29. ザ・コンサルタント

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田舎町のしがない会計士クリスチャン・ウルフに舞い込んだ、大企業からの財務調査依頼。 彼は重大な不正を見つけるが、なぜか依頼は一方的に打ち切られる。 その日から、何者かに命を狙われるウルフ。 実は彼は、世界中の危険人物の裏帳簿を仕切る裏社会の掃除屋でもあったのだ・・・。 年収10億円、天才的頭脳を持ち、最強のファイターでもあり、命中率100%のスナイパー。 本籍・本名・私生活、そのすべてが謎に包まれた会計士が、アメリカ政府、マフィア、一流企業に 追われてまで危険な仕事に手を出す本当の理由とは?

あのラーメン屋さん美味しそうだよね、と入った店で出てきたのはカレーで、「ラーメン食べるつもりで来たけどカレー美味しい!」ってなる感じというか。もっというと、すげー美味しいお肉!と思って食べてると、食べ終わる頃に「これ実は大豆なんですよ」って言われた感じというか。そんな映画。だから、この映画って要素が詰め込まれすぎててまとまりがないというより、本当のテーマが隠れているだけな気がする。それこそラストのあの絵のように。きっと彼は毎日毎日、決まったところでシャッターの開くボタンを押して、決まった速度で車庫に車を入れて、決まったディナーを食べて、決まったあの訓練をしていたのだろう。きっとそれが、いわゆる"普通"と"自分"を保つ生活であったはず。そんな反復描写とそれが崩れる瞬間がとにかく巧い。大きな社会にしろ小さな社会にしろ、そこから弾かれたもの同士が寄り添い、生きていくっていうテーマは2017年公開の他の作品とも共通していそうなのだけど、これはその描き方がとても真摯だと思う。

 

 

28. ドント・ブリーズ

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親と決別し街を出るため逃走資金が必要だったロッキーは、恋人のマニーと友人のアレックスと一緒に、大金を隠し持つと噂 される盲目の老人宅に強盗に入る。だが目は見えないが超人的な聴覚を持つ老人は、どんな“音”も逃さない<異常者>だっ た。真っ暗闇の家の中で追い詰められた若者たちは、怪しげな地下室にたどり着く。そこで目にした衝撃的な光景に、ロッキー の悲鳴が鳴り響く――。彼らはここから無傷で《脱出》できるのか―。

冒頭、ドローンがゆっくりともうすでに壊れてしまったデトロイトの町並みを捉える。道路の真ん中を歩く一人の老人。その異様な出で立ちに彼もまた壊れてしまった人なのだとわかる。あ、面白そうな映画が始まる!とこの時点で高まる。対するは、まだギリギリ壊れずに保っている若者たち。この映画は何より彼らの「選択」の映画だ。するかしないか、此処か何処かか、その選択が物語を推進していく。そしてその選択の結果が彼らに降りかかる。偶然はない。とにかく無駄なショットが一つとしてない。カメラの動きも、小道具の一つ一つも物を語る。確かにじいさんの悪趣味すぎるアレに関しては嫌悪感を抱くのもめちゃくちゃ頷ける。あの設定自体が悪いとは言わないけどそれが物語のカタルシスに繋がらないなら無くても良かったのかなぁとも思う。

 

 

27. 散歩する侵略者

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数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海(長澤まさみ)。夫・加瀬真治(松田龍平)は毎日散歩に出かけて行く。一体何をしているのか…?同じ頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。ジャーナリストの桜井(長谷川博己)は取材中に一人、ある事実に気づく。やがて町は急速に不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。「地球を侵略しに来た」— 真治から衝撃の告白を受ける鳴海。混乱に巻き込まれていく桜井。当たり前の日常がある日突然、様相を変える。些細な出来事が、想像もしない展開へ。彼らが見たものとは、そしてたどり着く結末とは?

エピローグまでは、にやけまくりでめちゃくちゃ楽しめた。これは好みだと思うけど、自分は、こんな美しい世界の終わりは見たことがないし、なんて素晴らしいんだろうと思ったからもうそこで終わってもいいのに!と思ってしまった。なんだか後日談によってありがちな話にまとめられてしまったように感じてしまったのが残念。風車を回す風、風力発電のプロペラ、不安定な照明、本編に関係ない人が映り込むカットとか黒沢清の映画だー!ってポイントも満載だし、長澤まさみの「あーもう!」は最高。

 

 

26. ナラタージュ

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大学2年生の春。泉のもとに高校の演劇部の顧問教師・葉山から電話がかかってくる。葉山は泉に、演劇部の後輩の為に、卒業公演に参加してくれないかと誘う。 葉山は、高校時代、学校に馴染めずにいた泉を助けてくれた教師だった。卒業式の日の葉山との誰にも言えない思い出を胸にしまい、彼を忘れようとしていた泉だったが、一年ぶりに再会し、押さえていた気持ちが募っていく。叶わないとわかっていながらも、それでも抑えきれない葉山への恋心。葉山もまた泉への複雑な感情を抱えていた。 やがて、大きな事件が起こり、ふたりの想いがぶつかりあったとき、それは痛みすらも愛おしい逃れることができない恋となっていたー。

この世は絶望や悪意に満ち溢れている。夜に一人で歩いていれば、それは意図せず襲ってくるし、30人も人が集まれば一人が孤立する。「一人」は恐ろしい。もういいか、と思ってしまえばそれまでだから。でも、そんな中から自分を見つけてくれる人がいたら、どんなに幸せだろう。数多くいる人の中から、自分「一人」を選びとってくれるなんて、なんと素敵なことだろう。それを人は「恋」や「愛」と呼ぶんじゃないだろうか。あの雨の日に、葉山先生は泉を見つけた。同時に泉は葉山先生を見つけた。時を経ても彼らはその時に戻りたいと願うように、雨音に耳をすませ、シャワーを浴び、海辺を歩く。いつしか「恋」は「救い」や「甘え」に、果ては「依存」になるのかもしれない。だから葉山先生はあの感情を「恋」じゃない、と言ったのかもしれないけど、そんなことはないはずだ。もうだめかも。と思ったときに、思い出すだけで力をくれるような、そんな思い出ってあると思う。自分はある。それはやっぱり進行形ではないけれど、紛れもない「恋」なのだと思う。実ることはないけれど、決して消えたりもしないもの。とはいえ、ひどく歪で、不恰好な映画だと思う。カットは連なってないように思えるし、演劇という要素は映像としてうまく扱えていないし、かなり抑えてはいると思うけどナレーションは割とうるさい。あと、自分は原作は読んでいないけど、恐らく終盤のある人物に起こる悲劇については消化不良を感じる人も多いのかな思う。だから、両手を上げて褒められるような映画ではないと思うけれど、それでも自分は決してこの映画を貶したりはできない。それは自分のこれまでを貶すことのような気がするから。

 

 

25. 美しい星

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大杉重一郎は予報が“当たらない”ことで有名なテレビ気象予報士。悪くない仕事、悪くない暮らし、悪くない家族関係(妻・息子・娘)、悪くないはずの人生。そんなある日、重一郎はあるものと遭遇する。それは――空飛ぶ円盤!?「自分は火星人。世界を救うためにこのホシに遣わされたのだ」重一郎のなかに“火星人”が覚醒する。覚醒は止まらない。フリーターの息子・一雄が水星人、女子大生の娘・暁子が金星人として次々目覚める。それぞれの母星から使命を受け取った家族はそれぞれのやり方で世界を救おうと奮闘しだすが、やがて様々な騒動に巻き込まれ、傷ついていく――。

これなんで劇場で観なかったんだろう…ととても後悔。中盤のビュンビュン系サイケトリップシーンでもうお手上げ。なんじゃこりゃ。設定もネズミ講、不倫、クズミュージシャン、環境問題と凡そ新鮮さを感じないものが並んでいるのに、こんなにも先が予想できない物語になるなんて。と、めちゃくちゃにぶっ飛んだ映画になっているかと思いきやラストは紛れもない吉田大八の映画になっていく。映画的には失速と言ってしまえばそうだけど、ラストこそがこの映画の本質のような気がする。宇宙人という要素を除けば、目も当てられない積み木崩し的な家庭の崩壊と、命の終わりによって、それでも人が縋ってしまう「夢」とか「信じること」みたいな超普遍なことを描き出すとは。または、スタジオジブリにおける「かぐや姫の物語」における有限の命の美を見上げる/見下ろすの対立構図で示すとは。

 

 

24. 雨の日は会えない、晴れた日は君を思う

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妻が死んで気がついた。彼女のことは、よく知らない。僕はあまりにも君に無関心だった―。 自らの感情とうまく向き合えない哀しみと虚しさを抱え、身の回りのあらゆるもの―妻のドレッサー、パソコン、冷蔵庫、そして自らの自宅までを壊し始めたディヴィス。 すべてをぶち壊してゼロにする―。 “破壊”を経て辿り着いた、人生で本当に大切なものとは―?喪失と哀しみ、そして再生への旅路を描いた物語。

ジェイクギレンホールのジェイクギレンホールによるジェイクギレンホールのための…みたいな。「君がいないことは、君がいることだな」(桜super love/サニーデイ・サービス)という一節を映画にしたような、というよりも一人の男がそう思えるまでのスクラップ&ビルドを描くなんてたまらない。

 

 

23. オクジャ okja

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韓国の山間の家で暮らす少女ミジャ(アン・ソヒョン)は、大きな動物オクジャの面倒を見ながら平穏な毎日を送っている。優しい心を持つオクジャは、ミジャにとって親友ともいえる大切な存在だった。ところがある日、多国籍企業ミランド社がオクジャをニューヨークに連れ去ってしまう。自己顕示欲の強いミランド社CEOルーシー・ミランド(ティルダ・スウィントン)が、ある壮大な計画のためにオクジャを利用しようとしているのだ。オクジャを救うため、具体的な方策もないままニューヨークへと旅立つミジャだったが……。

ニューヨークへと向かうエスカレータの中、人々の流れからひたすら逆行していくミジャがラストにはどうなっていたのか。その変化は、体制の過ちでもなければ、ましてやミジャの過ちでもなく、ミジャの成長なのだと自分は捉えたい。熟れていない果実や稚魚といったあらゆる「未熟」が序盤から提示される中で、その未熟ひとつであるミジャが世界の裏側を知り、この先の世を生きるために成長する。ラストにミジャとオクジャがしたある選択もまた、ひとつの未熟を取り上げて、未来へと繋げるための一歩なのだろう。

 

 

22. グッド・タイム

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ニューヨークの最下層で生きるコニーと弟ニック。2人は銀行強盗をしようとするが、途中で弟が捕まり投獄されてしまう。弟は獄中でいじめられ、暴れて病院へ送られることに。それを聞いたコニーは病院へ忍び込み、なんとか弟を取り返そうとするが---。

閉塞感を感じるアップや全体的な話運びには若干既視感を覚えるものの、照明を抑えた色味であったり、コニーを捕らえて離さない"赤"の演出や映画全体をものすごい力で牽引するOPNの音楽はむちゃくちゃ良い。
そして、何よりこれは彼等の「選択」の映画であるということに気づかされるラストで、忘れがたい一本になった。

 

 

21. モアナと伝説の海

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数々の伝説が残る南太平洋の大きな島で育ったモアナは、幼い頃に海と “ある出会い” をしたことから、海に選ばれる。そして16歳になったとき、運命に導かれるように “禁じられた” 海へ旅立つが―。

心底グッときてしまった…。「ズートピア」は頭一つ抜けてるにしても、これディズニーの中でもかなり上位に来るくらい好きかもしれない。ファンシーな部分を除けば、プロットは親に愛されずに育った孤児の少年(と言うには微妙な年齢かもしれないけれど)と、親に愛されすぎるが故に故郷に縛られてしまった少女の冒険だ。でもそれは逃避行なんかではなく、あくまで「心を返す」冒険なのがまた良い。彼や彼女にとってこのテ・フィティの心を返すための旅路が、自分の心を取り戻すものでもあるのだから。何より、2人が同じ船に乗って星を読み、風を掴んで前に進む様がもう泣ける。そして、モアナが海へ飛び出す理由が「選ばれたから」ではなく自分で「選んだから」と強く決意する場面はもうとんでもない。これが見たかった。自分で自分を選びとることの清々しさこそ紛れもない美しさなんだなぁ。物語的には、テ・フィティの心を返すのは必ずしもマウイじゃなくてもよかったのかい!ってところはちょっとつっこみたいところだけど、そんなところは目を瞑りましょう。

2017年ベストトラック20

着実にサブスク全盛の時代になっていく中で、「単曲としての強み」と「アルバムの意義」が乖離していっているのは言うまでもなく。正直、ベストアルバムを10枚選べと言われても挙げられないと思います。ただ、良い曲は多かった。そんな1年だったような気がする。あとはコラボ。これは昨年の海外のシーンがそうだっただけにいよいよ日本にもその流れが来ているような。もっと交わってもいいと思うし、もっとフックアップされるべき才能は地下に眠っている気がする。その大きな風穴を開けたのはやはり小沢健二で、どうやらその流れは2018年も続きそう。

ちなみに個人的には、数年後に(もう既に感はあるけどもっともっとオーバーグラウンドで)お茶の間を席巻しているのはCHAIとゆるふわギャングだと思います。

では、順不同で。コメントは後々追加していきます。

 

 

Slide (feat. Frank Ocean,Migos) / Calvin Harris


 

流動体について / 小沢健二


 

明日も / SHISHAMO


 

On Hold / The xx


 

Something Just Like This / The Chainsmokers&Coldplay


 

1-800-273-8255(feat. Alessia Cara,Khalid) / Logic


 

おとなの掟 / Doughnuts Hole

 

 

Chanel / Frank Ocean


 

W-KEYAKIZAKAの詩 / 欅坂46

 

 

Truth / Kamasi Washington

 

 

LONELY NIGHTS / tofubeats

 

 

 フクロウの声が聞こえる / 小沢健二SEKAI NO OWARI

 

 

Lonely World / Moses Sumney

 

 

あなた / 宇多田ヒカル

 

 

あなたがいるなら / Cornelius

 

 

タイムマシーンにのって / PUNPEE

 

 

Want to Be / Odisse

 

 

このままがいいね / シャムキャッツ

 

 

エスパー / ミツメ

 

 

灰色と青(+菅田将暉) / 米津玄師