太陽が燦々と輝く空の下を自転車で駆けてゆく制服の少女のイヤホンから漏れる音はこんな音だろうか。夕暮れの校門前で誰かを待つ彼女のイヤホンから流れる音もこんな音だろうか。いや、SHISHAMOの『SHISHAMO4』が素晴らしいのです。自分でもまさかこんなに声を大にして(文章だけど)こんなことを言おうとは考えてもみなかった。まず、このレビュー(とは行かないまでも感想)が過去3枚の彼女たちのアルバムを全く聞いていないヤツによるものであるということを最初に断っておきたい。なんなら、少しばかり偏見を持って聞かずにいたということをここで正直に告白し、謝りたいです。
まあそんなことはもういいですか。とにかく、「同じクラスに好きな人がいる」とか「帰り道に好きな人と一緒に帰る時のあの気持ち」とか学生でなければ、おおよそもう二度と同じ人生において自分の中には芽生えることのない感情が、このアルバムを聞いていると駆け抜けていく。これをエモーショナルと言わずになんと呼ぶ。いや、もうエモなんて言葉でまとめたくもない!
彼女たちが歌うのは絵に描いたようなラブソングだ。トラックリストを見て驚くなかれ。11曲中3曲に「恋」という文字が並び、アルバムの1曲目は「好き好き!」ときた。(「デート」もあります)この時点で目眩を起こしてしまいそうというか、拒否反応を覚えてしまうのもわからなくはないけれど、どの曲においてもそのスタンスを一切崩そうとしない彼女たちが見据えるものは、この世界に生きる恋する女子たちなのだ。いや、それは恋する女子に限らない。かつて「誰かのことが好きだ」という感情を抱いたことのあるすべての人々に向けられる。「好き」を連呼するアルバムの幕開けからしばらく経つと4曲目にしてエレクトーンと歌のみで構成される曲が鳴りだす。奇しくも昨年2016年を代表する曲となった星野源の「恋」と同名曲がそれである。それまでの曲がシチュエーションで「恋」を語っているとするなら、この曲に関しては「恋」という感情そのものを歌にする。
人を好きになるのってこんなに楽しいのね
毎日1日があっという間に過ぎてく
人を好きになるのってこんなに苦しいのね
この曲に関しては、対象は「彼」や「君」ではなく「あの人」と呼ばれる。星野源が歌った「恋」がそうだったように、この「恋」もまた男女によるものに限定はされないのではないだろうか。誰かが誰かを好きになる、そんな「恋」を3人の女の子が!バンドで!歌うのですよ。3人のガールズバンド(この呼び名はあんまり好きではない) というとやはり思い出すのはチャットモンチーなのだけれど、彼女たちは男性がひしめく社会の中で(もしくはバンドの中で)埋もれまいと、女性である前に一人の人間として確立し夢を目指していくような、そんな存在だったのかなあと思う。「シャングリラ」ですら分かりやすい恋愛の曲ではないですし。そう考えると、時代は面白い。社会の中で女性が埋もれるなんてもう古臭いのだから、今度は女性であることをアイデンティティとして歌う存在が現れるのだ。
アルバムのラストには「恋」から解放された、でも確実に「恋の先」にある景色に彼女たちは到達する。今やそこかしこで耳にする「明日も」だ。そこで歌われるのは、苦い現実を生き抜くための「生きろ!」というエールだ。
月火水木金 働いた
まだ分からないことだらけだから
不安が僕を占めてしまう
時々ダメになってしまう
月火水木金 学校へ
友達の話題についていくのは本当は
私にとっては大変で
私が本当に好きなのは昨日のテレビじゃない
ちっぽけなことで悩んでる
周りの人は笑うけど
笑いもせずただ 見せてくれる
走り方 ヒーローが教えてくれる
安っぽい、誰にでも書ける歌詞だという人もいるかもしれない。でもこれをポップソングと言わずして何をポップソングと呼ぶのだろう。イヤホンから流れるこの音に勇気づけられて「明日も学校に行こう」とか「明日も頑張ろう」と思える人がこの世界のどこかにいるならそれはもう紛れもない正義だし、それを歌う存在が今は絶対に必要なのだと思う。宮崎朝子さんの音楽的なルーツは分からないけれど、彼女がこうありたいと思った音楽が彼女にとってのヒーローであったように、SHISHAMOの存在もまた誰かのヒーローになるのだ。
ところで、SHISHAMOの名前をネット検索すると連想ワードとして「ブス」が早々に登場するのはなんとも解せない。まあね。いや。愛嬌のある顔だと思いますよ。いや、そういうことが言いたいのではなくて気持ちの話で。2017年マイベスト漫画に堂々と君臨する池辺葵の『雑草たちよ 大志を抱け』の作中において、太い眉毛がコンプレックスのがんちゃんが毛深いことがコンプレックスの久子さんにこんな言葉を話す。
久子さん言うてたやろ
くさったりせんと努力しようって
こういうおしゃれみたいのんほんまは苦手やけど、なんもがんばらんと「私なんか」って言うんはなんか嫌やなーって
ちょっとでもましになろうって言ってる久子さんキラキラしてて
かわいいって こういうこと言うんやって思って
そう言うことだ。これが「カワイイ」という言葉の正体だ。そう言うことでSHISHAMO
は「カワイイ」のです。
- アーティスト: SHISHAMO
- 出版社/メーカー: GOOD CREATORS RECORDS / UNIVERSAL SIGMA
- 発売日: 2017/02/22
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